しゃべるiPod Nano

先日、ふとした気の迷いにより、iPod Nanoの4GBモデルを購入した。傷がつきやすいということなので、シリコン製のケースも一緒に購入した。
あの手触りが気になった(ケースは本末転倒)ためというところが大きいが、もう一つ、友人の間でiPodをソフト的に改造してメニューなどを読み上げるようにすることが密かにはやっているというのがあった。
視覚障害がある場合、iPodを利用するのはいささか困難が伴う。まずiTunes。これがスクリーンリーダーにJAWSを利用しても今のところ使いにくい。キーボードショートカットが十分とはいえないし、画面のどこにフォーカスがあるのかがわかりにくい。この点はiTunesCOM APIというのがあるので、JAWSで使えるようなスクリプトを書いてみたいと思っている。
もう一つがiPod本体の使いにくさである。iPodの操作はクリックホイールをなでたりクリックする操作とSelectボタンで行う。これはこれでおもしろいと思うし、操作に応じて一応クリック音が本体から出るのでそれを頼りに曲を聴くことはなんとかできた。しかし、いろいろなメニューがあるのにそれを使うことはできないし、クリック音が聞こえないような環境だとクリックホイールを指先に感覚を集中してなでながらまごまごしてしまう。なんか曲を聴くことが目的でなく、操作することが目的になっていたりもする。
3週間くらい外出時に使ってだいたい雰囲気がわかったところで、「改造」にチャレンジしてみた。
Rockboxというものである。
Rockboxは各種ポータブルオーディオプレーヤー用のフリーのファームウェアを作ろうというプロジェクトである。箱だけ同じで中身は全く別のソフトウェアになるので、iPodの場合、iTunesとの連携というある種最強の得点は失われてしまうのだが、Explorerによる直接の曲転送や各種フォーマットへの対応が可能になる。また、いわゆるデュアルブートになるので、iPodとしても利用できる。さらに、メニューを音声でガイドする付加機能を組み込むことが可能である。
インストールはLinuxからこちらに従ってすんなり終わった。元のファームはiPodをディスクデバイスとしてみたときに第1パーティションをddでバックアップして保存するので何となく安心である。(戻したことはないが。)もちろんインストールはWindowsからでも行えるようなツールが提供されているようだ。

という手順で問題なくインストールできた。
さらに、音声化の手順に従って英語のVoiceファイルをインストール。といっても.rockbox/langsディレクトリにコピーするだけ。
きちんとumountしてUSBケーブルを抜くと、iPodは再起動し、ヘッドフォンから英語音声でメニューが読み上げられるようになった。思っていたよりとてもあっけないインストールだった。
私は英語音声として、english_Reed_fast_cvs.zipというのを利用してみた。これはJAWS英語版などで使われているIBM ViaVoice TTSとかEloquenceとか呼ばれる英語音声合成で、それなりに聞きやすい種類のものである。ただし、この音声ファイルはものすごく読み上げ速度が速い。おそらく英語圏視覚障害者はこれくらいでPCを利用しているのだろう。なんと言っているのか見当がつくまでに何度か聴かないといけないものもある。
フォルダやファイルはデフォルトでは読み上げられないが、General Settings/Voiceから数字として読み上げるように設定してみた。これはFolder 1とかFile 2というように読むもので、これなら日本語ファイルでも怖くない。というか本当は名前を読み上げるのがいいのだけど、RockboxにText to Speechソフトウェアが入っているわけではないので仕方ない。やりたいならフォルダやファイルに対応した*.talkというファイルを作れと書いてあるが、そこまでしなくても。
iTunesでコピーしたファイルたちは意味のないファイル名になっているしRockboxのファイルリストに表示されない。そこでPCのiTunesディレクトリから、ExplorerでフォルダをそのままiPodにコピーしてみると、問題なく再生された。音も悪いわけではないし、メニューでバスやトレブルが自分で設定できるのがうれしい。グラフィックEQもあるのだけど、これは何となく音声が出ない様子。少し残念。
第一印象はまずまずといった感じ。早速iTunesでCDから読み込んであるファイルをごそっとRockboxで聴ける場所にコピーしてみようと思う。あ、それからマニュアルも読まないと。

ところが、上記のようにiTunesとの同期ができない問題は、Tag Cacheという機能であっさり解決してしまった。ID3タグを一度検索してデータベース化することで、iTunesがコピーしてフォルダとしてはランダムにされてしまっているデータもアーティストやアルバムごとに階層化表示してくれる。ファイル番号の読み上げが1でなく-2から始まってしまうがこれもきっとそのうち直るだろう。
画面上日本語が表示できているのかは不明だが、とりあえずハングせずに動いている模様。