iOS 6.0+VoiceOver: 日本の視覚障害者にとっての大きな1歩

本日2012年9月19日(米国時間)、アップルのiPhone, iPad向けOSであるiOS 6.0へのアップデートが開始されました。
iOS 6の一般的な更新内容については本家のサイトを始めとして各所で紹介されていますが、VoiceOverについて書かれていない大きな新機能があり、また問題点も残っています。
ここでは日本のVoiceOverユーザにとって特筆すべき新機能と問題点について挙げてみたいと思います。

改良点

文字の説明読み

iOS 6.0では長年の待望だった日本語の文字を説明読みする機能が入りました。説明読みとはたとえば「今日は」を「今月のこん・今、日曜日の日・ひ、ひらがなのは」と説明するものです。これまでは「漢字」と「感じ」を区別できませんでしたが、これからは確実に選べるようになります。

  • 日本語入力中に、上下フリックまたはキーボード上側の候補部分をタッチすると、選ばれた候補を説明読みします。
  • 任意の場所でVoiceOverローターを「文字」に合わせた状態で上下にフリックして1文字ずつ読ませると、選択された文字の後にその文字の説明読みをしゃべります。

これで日本のVoiceOverユーザも、文字入力を自信を持って行うことができるようになりました。なお漢字の説明読みはJAWSやPC-Talkerのそれとは違っているようです。(追記: IBMホームページリーダーに搭載されていた説明読みではないかという噂があります。→どうやらそうでもないようです。)

Bluetoothキーボードでも説明読み

これと合わせて、Bluetoothキーボードを接続して使っている時にも日本語入力時の説明読みが提供されるようになりました。日本語を入力してスペースキーを押せば、最初の(推測)変換候補が説明読みされます。そこから再度スペースキーを押したり左右の矢印キーで候補が選択でき、Enterキーで確定します。
入力時に余分なぽよぽよという音がしたり、あまり速く入力しすぎると文字が入らなかったりしますが、十分実用になるレベルです。これでiPhone/iPadの使い方が大きく広がりました。

キーボード操作の変更

タッチ入力モードで入力している時、これまでは削除キーはダブルタップまたはスプリットタップが必要で操作性を悪くしていました。iOS 6からはこれらのキーも文字のキーと同じように指を置いて離すだけで入力できるようになりました。
キーボードの切り替えキーの読み上げが少し変わりました。以前は「そのキーを押したら切り替わる先のキーボード」をガイドしていましたが、iOS 6では「次のキーボード」とガイドされます。キーボードの切り替えがややこしいなと思ったら、このキーをダブルタップして押さえたままにし、上に指を滑らせてみてください。キーボードの一覧があるので必要なところで指を離せばそのキーボードに切り替わります。これは以前からあった機能ですが、iOS 6で反応が改善されて使いやすくなりました。
地味な修正として、スペースキーや改行キーにその時の状態がきちんと反映されるようになりました。たとえば改行キーは未確定の文字がある時は「確定」、確定した後に続く推測候補が出ている時には「閉じる」とガイドされます。
また、日本語仮名キーボードで「あ」や「た」の左にあるキーにもガイドがつきました。「完了」や「逆順」とガイドされます。
改良ではありませんが、以前はEnglish USキーボードの時にキーの文字を英語音声でしゃべっていましたが、iOS 6では日本語音声でガイドされます。これはちょっと不便になったかもしれません。

圧縮ボイスで音声が出なくなる問題の解消

iOS 5では圧縮ボイスにしている時に、しばらく使っていると突然しゃべらなくなることが頻発していました。iPhone 4を使っている場合など高音質音声では重たいと感じる場合に圧縮ボイスは重宝します。今回の修正でiPhone 4が延命されるかもしれませんね。

問題点

iOS 6.0のリリース時点では結構困ったものも含めていくつかの問題点が残っているようです。重要なものだけ以下に紹介します。

全角の英数字が韓国語になる

一番困るのはこれです。「1」や「a」などのいわゆる全角英数字、それに一部の記号が韓国語とおぼしき音声で読まれます。「1」は「イルー」とかになっています。(私は韓国語を知らないので違うかもしれません。)
普段Twitterやメールを読んでいると意外に全角英数字が多いことに気づかされます。できるだけ早く修正されることを期待しています。

削除キーなどが説明読みされる

削除キーなどに指を置いたままにしていると、「削除  削減するのさく・削る、 除外するのじょ・除く」としゃべってしまいます。本来は「削除」というだけでいいはずです。キーボード上のキーを触っていてこのように言われても驚かないようにしましょう。

その他いろいろ
  • BluetoothキーボードでSafariの検索ボックスに入力しているとキーが繰り返されてうまく入力できなかったりします。
  • 説明読みで「お」と「を」が区別できなかったり、英字が大文字かどうかわからなかったりします。
  • 他にも致命的でない問題がいくつかあります。

バグレポートの勧め

iOS5のベータ段階から、アップルの開発者登録をした数人でリリース前のiOSを利用してバグ報告を送る取り組みをして、これまでに20件近い修正が取り入れられています。
iOSの開発は主に米国で、日本語環境の問題はそのままでは見過ごされがちです。ベータ版の入手には有料のiOS Developer Program登録が必要ですが、無料の開発者登録でもApple Bug Reporter経由で既存バージョンに対するバグレポートを送ることができます。レポートは英語で書く必要がありますが、レポートしなければ日本人が困っていることは開発者まで伝わりません。
レポートを送っても、それがいつ直るのかはこちらからは分かりません。ただ、何か不明なことがあれば質問が来ますし、バグが修正されたり改善がされたりした時にはIOSの開発者向けリリースが出ると同時に「このバグが新バージョンでも出るか確認してください」という連絡が来ます。これを見て動作確認し、ちゃんと直っていた時はうれしいものです。やりとりをしていると、アップルのアクセシビリティへの対応が活発であることを肌で感じることができます。
なお、今回説明読みがついたことそのものは我々が挙げた要望が直接の理由ではないと思っています。説明読みに関する要望を出したのは今年の2月九日で、iOS 6.0 betaが出たのが6月ですから4ヶ月で盛り込まれた訳ではないと思うからです。
アップルの取り組みには感謝しています。そしてこれからも引き続きレポートを続けていきたいと思っています。